Case Study

【後編】制限だらけの建物に新たな価値を。「IKAHO HOUSE 166」と伊香保のサステナブルな未来とは。

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【前編】石段街の“空白”をセンターハウスへ──「IKAHO HOUSE 166」始動までの道のり。

  • IKAHO HOUSE 166
  • リノベーション
  • 伊香保
INTRODUCTION
記事前編では、伊香保・石段街の中心に長く眠っていた建物が、「地域の拠点」として再生されるまでの背景をご紹介しました。オーナーの想いと地域課題から生まれたセンターハウス構想、その歩みをたどっています。
後編では、施設運営を担う「石楽株式会社」の代表取締役・岡嘉紀さんに引き続きお話を伺いながら、その構想がどのように形になったのかに焦点を当てます。建物の制約を乗り越えた空間の工夫や資金面の取り組み、完成後に見えてきた利用者の反応、そして伊香保の未来につながる可能性までをお伝えします。

耐震補強という大きなハードルと空間作りの工夫

「センターハウス」の構想が固まり、2022年から具体的な事業化に向けた検討が本格的に始まりました。しかし、最初に直面したのは、この建物ならではの構造的な難しさだったといいます。

最大の壁となったのが耐震補強。木造4階建てという特殊な構造を安全に活用するためには、大規模な補強が不可欠でした。合わせて58本もの耐震壁が必要とされ、そのうち1階に30本、2階に24本を入れる必要がありました。(岡嘉紀さん)

耐震壁を入れることは安全性を高める一方で、店舗として使える面積を大きく制約します。特に1階と2階は耐震補強を優先した壁が中心となり、当初構想していた開放的な店舗空間は実現できなくなりました。

壁を入れれば入れるほどフロアを広く取れなくなる。本当にパズルみたいでした。(岡嘉紀さん)

設計は何度も見直され、空間をどう成立させるかが最大のテーマとなります。

そこで、石段街の特性も考慮して、1階をテイクアウト専門、2階を飲食提供のメインフロアとすることにしました。

この構成に合わせて、株主としてもコミットしていた水沢うどんの名店で知られる「大澤屋」と何度も協議し、1階は調理と受け渡しに機能を絞り、料理は2階で提供することにしました。水沢うどんを目当てに訪れた人が、そのまま建物の中を巡っていく——そんな自然な人の流れも生まれました。1階のテイクアウト店には、抹茶を使った和スイーツの新店が加わり、食べ歩きの楽しみも広がっています。

不動産としての収支効率やリノベーションの美しさという観点では、決して理想的ではありません。でも、様々な条件を踏まえて、この建物でやるならこの方法しかなかった。構造的制約を受け入れたうえで成立させた、建物に合わせた事業設計でした。テナント側の理解と協力がなければ成り立たない選択でもありました。(岡嘉紀さん)

一方、3階と4階は耐震補強の影響が比較的少なく、建物本来の魅力が色濃く残る空間となりました。梁や床板、階段の質感には、かつて旅館だった時代の記憶が息づいています。

上の階に行くほど、昔の木造建築の良さがそのまま残っています。ここはぜひ生かしたいと思いました。(岡嘉紀さん)

これらのフロアには、群馬らしさを感じられる物販や体験型の店舗が配置されました。3階には本と雑貨の店「やまのは」と、「卯三郎こけし」と高崎だるまの「大門屋」によるコラボショップが入り、伝統工芸を楽しみながら選べる空間に。観光客が群馬の魅力を持ち帰る場として機能しています。

4階は用途を固定せず、ギャラリーやワークショップ、期間限定のイベントなどに活用できる余白として設計されました。

金継ぎ体験や物販イベントなど、火を使わないものならいろいろできます。場を固定しないことで、動きが生まれるんです。(岡嘉紀さん)

こうした柔軟性が、施設に継続的な魅力を与えています。

資金面を支えたファンドとクラウドファンディング

このプロジェクトを現実の事業として支えたのが、地域金融機関が主導するファンドの存在でした。建物の取得から改修までを担い、投資として成立させるスキームが組み立てられています。

お金をかけすぎれば事業として成り立ちません。でも、安全性と最低限の機能は確保しないといけない。そのバランスを取るのが一番難しかったですね。(岡嘉紀さん)

過剰投資を避けながら、建物の価値を引き出す。古民家や歴史的建築の再生に共通する課題と向き合うプロセスでした。

さらに、クラウドファンディングも実施されました。全体工事費に占める割合は小さいものの、プロジェクトを社会に開き、共感を広げる役割を果たしたといいます。

資金調達というより、この取り組みを知ってもらうための広報のためのものでした。応援してもらうことで、プロジェクトが地域のものになっていったと思いますね。(岡嘉紀さん)

結果として、地域活性化の取り組みとして評価を受け、注目を集めるきっかけに。

動き出したセンターハウスが目指す、持続可能な観光地のかたち

こうした準備を経てオープンした「IKAHO HOUSE 166」は、現在では石段街の中心で自然と人が集まる場所になっています。

ここに来れば安心、何かある、という場所になってきていると思いますね。飲食、物販、体験、待ち合わせといった目的が重なり、施設そのものが回遊のハブとして機能しています。個々の店舗を目的に訪れた人が建物全体を巡り、そのまま石段街へと流れていく動線が生まれているように感じます。(岡嘉紀さん)

この取り組みの根底にあるのは、「持続可能な観光地」をつくるという視点。

ブームで人が集まって終わる観光地にはしたくない。若い人や海外の方も含めて、ずっと人が循環する場所にしたいんです。拠点が生まれることで滞在時間が伸び、周辺に新たな取り組みが生まれ、まち全体の魅力が高まっていく。その好循環を生み出すことが、このセンターハウスの役割です。(岡嘉紀さん)

かつて旅館として人を迎えてきた建物は、形を変えながら再び伊香保の入口として機能し始めました。

それは単なる建物再生ではなく、地域課題を事業として解決するモデルづくりでもあります。

「IKAHO HOUSE 166」は、歴史的建築を生かしながら観光地の持続性を高めるひとつの実践例として、これからのまちづくりに多くの示唆を与えていくでしょう。

IKAHO HOUSE 166
群馬県渋川市伊香保町伊香保字香湯乙68番地
https://sekiraku-ikaho.co.jp/

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