Case Study

【前編】石段街の“空白”をセンターハウスへ──「IKAHO HOUSE 166」始動までの道のり。

INTRODUCTION
伊香保温泉のシンボル、365段の石段街。そのちょうど“踊り場”のように人が行き交う166段目に、かつて旅館として使われていた建物があります。営業を終え、長く眠っていた旧旅館を耐震補強し、飲食・物販・体験が同居する複合施設へ──それが「IKAHO HOUSE 166」です。
今回は、施設運営を担う石楽株式会社代表の岡嘉紀さんに、プロジェクトが始まった背景や建物を未来へつなぐための意思決定、そしてまちづくりに挑む思いを伺いました。

長く眠っていた旅館と、守り続けられていた時間

2024年12月にオープンした「IKAHO HOUSE 166」は、かつて「市川旅館」として親しまれてきた築100年以上の木造4階建て建築を再生した複合施設です。

伊香保を訪れる人であれば誰もが目にするこの場所は、長く地域の風景の一部であり続けてきました。

しかし、この建物が再び人を迎える場所になるまでには、静かな時間の積み重ねがありました。

正確な年数は定かではありませんが、十数年ほど空いていた建物です。ただ、遠方に住むオーナーさんが時々足を運んで、風を通したり掃除をしたりしながら丁寧に管理されていました。中は本当にきれいになっていましたね。(岡嘉紀さん)

建物は静かに眠っていただけで、丁寧に守られていたのです。

決して放置されてはいなかった建物。しかし、石段街の中央という象徴的な場所に空き家がある状態は、地域にとって大きな課題でもありました。

伊香保では廃墟再生の取り組みなどを通じて、人の流れが大きく戻り、週末を中心に多くの観光客が訪れるようになっていました。その一方で、石段街の中心に空き建物が残り続けている状況は、地域にとって大きな課題でもあったんです。にぎわいが生まれてきたからこそ、「この真ん中が空いたままでいいのだろうか?」という声が自然と広がっていきましたね。(岡嘉紀さん)

観光動線の中心に位置する建物が使われていないことで、にぎわいの流れが分断されてしまう。象徴的な場所であるからこそ、その空白が持つ意味は大きかったのです。

「地域のために」というオーナーの切なる想いをうけて

そして、オーナーにとっても建物を維持し続ける負担は年々重くなっていました。遠方から通いながら管理を続けることには限界があります。しかし、単に売却してしまうことには強い抵抗があったのだそう。

誰に譲渡してもいいわけではなく、地域のために使ってほしいという強い思いをお持ちでした。(岡嘉紀さん)

建物を資産として処分するのではなく、伊香保の未来に役立つ形で生かしてほしい。その考えが、プロジェクトの出発点となります。

そこで相談先となったのが地域の金融機関でした。通常であれば不動産売却として扱われる場面ですが、今回は「地域課題を解決する活用」を前提とした検討が始まります。建物をどう活かせば伊香保全体の価値向上につながるのか。視点は個人の資産処分から、まちづくりへと転換していきました。

しかし、活用方法を考えるうえで、建物そのものが大きな制約を抱えていたのです。

木造4階建てという形式は、現行の建築基準では新築できません。かつては旅館として使われていましたが、再び旅館業として許可を取り直すには、法規・安全面ともに高いハードルがあります。

木造4階建てを旅館にして、もう一度旅館業を通すとなると相当難しい。活用方法はかなり限られていました。(岡嘉紀さん)

「センターハウス」という新たな役割へ

旅館としての再生は現実的ではない。では、どう使うのか。そこで浮上したのが「センターハウス」という考え方でした。

伊香保は旅館街である一方、観光客を受け入れる飲食店は十分とはいえず、若い世代を惹きつける物販や体験コンテンツも少ないという声もあったといいます。

ここに来れば安心というコンテンツが揃い、トイレを備え、雨の日にも一定の時間を過ごせるというような場所が今までなかったんです。石段街の真ん中にあるなら、そういう拠点にできるのではないかと。(岡嘉紀さん)

飲食や物販、体験機能を備え、観光客がまず立ち寄り、そこからまちを回遊する起点となる場所。単なる店舗集合体ではなく、伊香保全体のハブとして機能する施設を目指す構想が固まっていきました。

こうして、建物は“旅館の再生”ではなく、“地域拠点への転換”という方向で動き出します。

ただし、これは理想だけで進められるものではなく、取得費や改修費を踏まえ、事業として成立させる現実的な事業計画が同時に求められていたのです。

物件の取得費用も安くはありませんし、事業収支は本当にギリギリでした。そんな中でも、自律的に事業が運営され、投資としても成立させないといけない。そのバランスを取るのがまず難しかったですね。(岡嘉紀さん)

前例のない木造4階建ての再活用に加え、地域の課題解決と事業性の両立。

石段街の“空白”を、伊香保の起点へ変える挑戦が、ここから本格的に始まったのです。

記事の後編はこちらから

【後編】制限だらけの建物に新たな価値を。「IKAHO HOUSE 166」と伊香保のサステナブルな未来とは。

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