Case Study

[前編] 東京・新宿から富岡市妙義町へ移住 ありのままのコミュニケーションで自然と紡がれる繋がり

INTRODUCTION
東京・新宿から富岡市妙義町へ移住した西尾祐諄(ひろし)さんは、2019年冬に倉庫を改装した珈琲焙煎所「月とゆふづつ」を、2022年5月には焙煎所の向かい側に建つ築140年以上の古民家を生まれ変わらせ、「古民家カフェ桑庵(そうあん)」をオープンさせました。

都内の不動産開発を手掛けていた西尾さんが、妙義へ移住し古民家カフェを営むまで。不動産のプロならではの物件探しの視点や、リノベーションやDIYの体験談などは、これから古民家活用をしたい人にとって、たくさんの知恵と後押しがもらえるインタビューとなりました。

記事前編は物件と出会い妙義へ移住するまでのストーリーをお伺いします。

どんなところを見る?調べる?物件探しの視点

珈琲焙煎士としてのキャリアは東京時代から10年以上になる西尾さん。不動産業のかたわら文京区では直営のカフェも開き、店舗営業は人に任せていましたが、カフェの核であるコーヒーについては、本業の忙しい合間をぬって西尾さん自ら焙煎を行なっていました。当時の悩みは、都会の住宅街で焙煎所をやることの難しさでした。好きな人には良いと感じる焙煎の香りも、そうでない人には不快に感じさせてしまうこともある。ご近所さんから厳しいご意見をいただくこともあったそうです。

まずは焙煎所を移転するつもりで物件探しをスタートしましたが、せっかくならと東京郊外よりさらに地方にも候補の範囲を広げました。

本業が不動産だったからすぐ検索できるんでね。僕がその時ちょうど還暦だったから、良い物件さえあれば移住もいいかなと。別に群馬でなくてもよかったんだけど、その年の運気がいい方角がこっちだったんで、関東地方の地図に線を引いてその方角で探した中の1つだったんです。(西尾さん)

すぐさま現地を訪れた西尾さん。群馬は草津温泉には来たことがあるものの、妙義に来たのはこの時が初めて。目の前にそびえる妙義山の景色に圧倒されました。

立派な門構えが目をひく養蚕農家の古民家と、道の向かい側に農業倉庫。まずは倉庫を焙煎所に、そして家のほうは古民家カフェに改修して、と理想的なイメージがすぐに描けたそうです。家にはおじいさんが一人でお住まいでしたが、遠方にいるご家族と同居をすることになり、この家を売却するということでした。

まだ人が住んでいて建物が使い続けられている。空き家なら似たような物件はあるかもしれないけど、この家のような条件はなかなか無いなと。他の人に取られちゃったら嫌だと即決しました。(西尾さん)

人が住まなくなると家は急速に傷みが進んでしまうもの。人が住み、建物に風が通り、使われ続けていることは、不動産のプロ的には大切なポイントでした。

県道沿いにある立地や、駐車場として空き地を借りやすそうな周辺環境も良い。富岡市の長期総合計画を調べると、行政も妙義の観光振興の方針を打ち出していました。

このエリアの市場調査をしたら、当時コーヒーの焙煎所が1つしかなかったんですよ。人口5万人あたりで1件だけ。妙義や下仁田の人口がどれくらいで、喫茶店や焙煎所がどれだけあるか、そういうの調べて計算しても、絶対やれる、勝てるじゃんって思いましたよね。田舎だからダメっていうことは一切なくて、わざわざ来たいと思わせる何かを打ち出せばやっていけるんですよね。(西尾さん)

また、この家に宿るストーリーも魅力的だったそうです。明治16年にこの家を建てたご一家は、旧妙義町の町長や教育長を務めた方も輩出した名士の家。クリスチャンでもあり、安中教会や内村鑑三、新島襄とも親交があったと言われています。蔵には、珍しいことにアルファベットが意匠として施され、文化や教育を大切にする先進的な気風も感じられたそうです。そんな由緒あるお家の佇まいを引き継げることは、きっと町の人々との繋がりづくりの架け橋にもなると西尾さんは思いました。

焙煎所が繋ぐご近所の輪

2019年夏から倉庫の改装に着手。最初のうちは富岡市役所の「移住体験住宅」を借りることができ、新宿と妙義の二拠点を行ったり来たりして焙煎所の準備を進めました。その年の12月にはおじいさんの引っ越しが済み、西尾さんも住民票や会社の所在地を移して、焙煎所を営みながら本格的に妙義での生活とカフェの改修が始まりました。

電気や水道など素人では不可能なインフラや、カウンターテーブルや階段などのお客様の安全面に関わる部分はプロに工事を依頼。また、壁や床の端の部分が真っ直ぐでないこと多いのが古民家改修の難しいところなので、端の収まりについては大工さんにお願いしました。

それ以外の部分は自分でやれるところから始めようと思って、とりあえず自分でラフな図面を作って。近所のおじさんたちにも手伝ってもらって一緒にセルフビルドしていった感じですね。始めてみたら、結構大変だったんですよ。大きな家におじいさんが一人暮らしだったから、ずっと使われていなかった部屋もあって。傷んでたところに足がズボッとはまっちゃったりしました(笑)。(西尾さん)

初めての土地で、ご近所さんとDIYをお手伝いしてくれる仲になるとは。どんな風に関係を築いていったんでしょうか?

一人でコンコンとDIYしてると、ご近所も気になるから話しかけてくれるんですよね。コーヒー屋やろうと思ってるって言ったら、『こんなところに誰が来るんだ。』って不思議がられて。多分すぐやめて帰るんだろうなって感じで、最初は遠巻きに見られてましたよね。(西尾さん)

先行してオープンした焙煎所がSNSでの発信もあり次第に注目を集め、コーヒー豆を買いに来てくれるお客さんも徐々に増えていきました。下仁田や安中など、まずは周辺の人が訪れてくれることが多くなり、富岡・妙義の人も注目してくれるようになりました。

そうすると近所の人たちも、『こんなところまで人が来るんだね。』って印象がちょっと変わってきて。面白がってカフェのDIYを一緒にやってくれる人が出てきて、さらに人が人を呼んで色々連れてきてくれてって感じで、ご近所さんに手伝ってもらった箇所もかなりありますよ。(西尾さん)

大阪生まれ大阪育ちの西尾さん。気構えずともありのままのコミュニケーションで自然と繋がりが育まれていったようです。

記事後編は、古民家をカフェへとリノベーションする上での様々な工夫やエピソードと、これからの新たな展開についてお伺いします。

記事の後編はこちらから

[後編] 東京・新宿から富岡市妙義町へ移住 不動産業の再開で地域にお返しできたら

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