都内の不動産開発を手掛けていた西尾さんが、妙義へ移住し古民家カフェを営むまで。不動産のプロならではの物件探しの視点や、リノベーションやDIYの体験談などは、これから古民家活用をしたい人にとって、たくさんの知恵と後押しがもらえるインタビューとなりました。
記事後編は、古民家をカフェ・桑庵へとリノベーションする上での様々な工夫やエピソードと、これからの新たな展開についてお伺いします。
新しさ」を出さずに直す 今と昔をつなぐ空間作り
昔の建物は天井が低く、現代ではそのまま使うには難しいところも。畳と床を解体撤去しレベルを下げ、コンクリート土間へ変えました。和室だった2つの部屋と縁側廊下をひと続きにして、カフェの客席となる空間へ拡張。床の間や作り付けの洋服箪笥を残したユニークな雰囲気も素敵です。解体した時に状態のよい古材は磨き直し、柿渋で仕上げて壁など随所に張って再び活かしています。

古材に加え、もともとこの家にあった様々なものが、お店の空間作りに一役買っています。蔵にしまわれていた建具は客席の仕切りとして活用。眠っていた古家具もリペアして甦り、昔と今を繋ぐ独特の心地よい雰囲気を生み出しています。残されていたお蚕棚や、蔵から出てきた馬蹄もインテリアとしてアレンジ。
タンスの中を開けたら昭和9年の新聞がキレイなままで出てきたんで、思わず額に飾っちゃいました。日本史の授業で出てくるような世界を感じられてすごいですよね。(西尾さん)

電気の配線は新たに全部引き直してもらいましたが、以前使われていた碍子(がいし)がたくさん残っていたので、磨いてきれいにして、碍子を活かすレトロな“見せる配線”で職人さんに施工してもらいました。そのほか全体的に、直したところに「新しさ」が出てしまわないないように、アンバランスにならないようにと気を配り空間作りを進めました。
いちから直そうとすると、びっくりする金額になってしまうのも古民家の難しいところでね。窓のサッシも枠が歪んでしまっているから、一度外したらもう入らなくなっちゃうと言われたんですよ。かといって全部オーダーで作り直すなんて、どれだけお金があったとしても足りなくなっちゃう。だから庭に面した窓はサッシはそのままで、ガラスだけ既存のすりガラスからクリアのものに変えました。(西尾さん)


桑庵で過ごす、日常のような非日常
古民家ならではのリノベーションの苦労もありましたが、コツコツと2年かけて築140年の養蚕農家をカフェへと生まれ変わらせ、2022年5月に「古民家カフェ 桑庵」がオープン。妙義の雄大な自然を感じながらカフェへ訪れると、古き良き温かな空間が迎えてくれ、自家焙煎の豆をネルドリップでゆっくり淹れてくれるおいしいコーヒーが味わえます。
東京と比べても、こっちの人はコーヒー文化度が高いですよ。県内にも老舗の珈琲屋さんがあるし、名店が多い軽井沢まで30分くらいで行ける土地柄もあると思いますけど、日常的に良いコーヒーを飲んでいて味をよく知ってらっしゃる。下手なコーヒー出したら相手にされなくなっちゃうぞって、背筋が伸びるしやりがいがありますよね。(西尾さん)

思った以上に地元の方の反響もあり、たくさんの人が来てくれるようになりました。お正月に都会から帰省した息子さん娘さんを連れて、「ここにもおいしいコーヒー屋があるんだぞ。」と自慢するように家族で寄ってもらえたりするのも嬉しいそうです。
日々お店を営む中で、どんな場所やどんな瞬間にふとこの場所の良さを感じるのか、お気に入りを西尾さんに尋ねました。
春夏秋冬どの季節もカウンター席からの庭の眺めは好きですね。先人たちが植えてくれた植物が、季節になるとどんどん出てきて、毎年色々な気づきがあって。この瞬間を感じるために昔の人は植えていたんだなって面影も感じたり。こっちに来てから季節の移り変わりがすぐわかるようになったのは嬉しいですね。(西尾さん)
古民家とともにバトンを受け継いだ広くて立派な庭からは、清々しい「コケコッコー」の鳴き声も聞こえてきます。ご近所からお願いされ烏骨鶏をつがいで引き取ることになり、産んだ卵を試しに孵してみるうち増えに増え、西尾さん曰く「ちょっとカオスになってます(笑)。」という賑わい。日中は、小屋から出て庭を軽やかに駆ける鶏たちや、看板猫のほのぼのとした様子をカフェから眺めることができます。なかなか他では味わえない、桑庵ならではの非日常を感じる過ごし方が若い人にも人気なのだとか。
鶏たちがたくさん卵を産んでくれるようになれば、カフェのスイーツとかにも活かしていけたらいいなと思っています。ゆくゆくは養鶏もできたらいいんだけど、そこまでは無理かな(笑)。(西尾さん)


不動産業の再開で地域にお返しできたら
焙煎所、カフェの営業に加え、妙義ふるさとマルシェの運営や、コミンカコナイカへの参画など現在も精力的に動いていらっしゃいますが、さらに新たな展開として、不動産業の再開も準備しています。
都内のシェアハウスやゲストハウス、鹿児島の空きビル利活用など10数件の不動産開発を手掛けていた西尾さんですが、移住を機に整理し不動産業は一旦閉業。地域との繋がりが深まったら、いずれここでの再開も考えていました。焙煎所がコロナ禍の巣ごもり需要で予想以上に忙しくなり、カフェのリノベーションもありで後ろ倒しになっていたそうですが、いよいよ動き出すとのこと。
古民家は使われなければどんどん朽ちてしまっていくもの。利活用を進める一助になればと、もう一度宅建業の免許を取得し直して古民家に特化した不動産業をやろうと考えています。移住したいという若者を呼び込みやすい環境を作ってあげることで、このエリアに2軒、3軒と古民家を生かしたお店や場所が増えて、面的に地域おこしができたほうが絶対にいい。そうやって周りに還元していけたらいいなと思ったりもしています。(西尾さん)
古民家の物件探しから契約、改修やDIY、お店を始めて軌道に乗せるまで。妙義に移住してから今までの西尾さんの実体験やノウハウ、桑庵という実例など、まるまる活かしてサポートしてくれる頼もしいパートナーになってくれそうです。興味のある方は、まずは桑庵においしいコーヒーを飲みに行きながら気軽にお話をしてみては。妙義というエリアを気に入ってくれたら、さらに本格的に相談に乗ってくれると思います。
古民家活用とカフェは親和性があり、コーヒーやカフェつながりで群馬の各地域のキーマンとつながることも多いそうです。
東京の個人主義な感じを体験してきた身からすると、群馬は面白い人同士が繋がりあってすごいじゃんって思いますよ。そういう人や地域が連携するっていうのは、簡単にはいかないとは思うけど、群馬なら何だかできそうな気もしちゃうよね。(西尾さん)
群馬・妙義に移住をしてみての驚きや発見について聞いてみました。
新宿のど真ん中に住んでいたから、最初は夜の妙義の暗さには驚きましたよね。もう夜道の運転も、お店が夜8時に閉まっちゃうのも慣れたし、東京とは違う便利さで、自然も豊かだし却って住みやすいと思いますよ。でも、風が強いのは本当にびっくりした!こんなに吹くのって(笑)。あと、食べ物はやっぱりみんなおいしいですよね。豚肉のおいしさもそうだし、こんにゃくのおいしさは全然違うよね。近所の人が野菜とか色々持ってきてくれる感じも最初は戸惑いましたけど。なんでくれるのかな、もらっていいのかな、なんか返さんとあかんのかなって(笑)。お礼できるほど鶏たちが卵を産んでくれたら、そのうちお返ししたいよね。(西尾さん)


古民家カフェ桑庵(そうあん)
富岡市妙義町大牛113
https://www.instagram.com/souan_myogi/
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