Case Study

【後編】古民家を直しながら続けていく。「曾根商店 白井宿カフェ焙煎所」が育てる、場所のこれから

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【前編】宿場町の古民家で始まった、時を重ねるコーヒー店。「曾根商店 白井宿カフェ焙煎所」が描く100年続く場所づくり

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INTRODUCTION
前編では、「曾根商店 白井宿カフェ焙煎所」がどのように始まったのか、そして店主の曽根真志さんがなぜこの古民家を活かして店をつくることを選んだのかを伺いました。コーヒーへの思いから始まった挑戦は、家業の歴史や白井宿という場所の魅力とも重なりながら、少しずつ形になっていきました。
後編では、実際にどのように建物を整え、店として育ててきたのかをたどります。古民家ならではの難しさや、もともとあったものを活かしながら空間をつくっていく面白さ。そして、店を続けることが建物や地域の未来とどうつながっているのかについて、曽根さんにお話を伺いました。

一番時間がかかったのは、建物を“使える状態にすること”だった

古民家を活かしてコーヒー屋を始めると決めても、すぐに営業できる状態だったわけではありません。まず必要だったのは、建物を使える状態に整えることでした。

一番時間がかかったのは片付けですね。建物に残されていたものを整理し、どこをどう使えるのかを見極めていくところから始まりました。

大掛かりなDIYで少しずつ作っていったというよりも、改修の中心は専門業者に依頼しながら進めてきました。

僕自身が構造的に手を入れたり、大きく何かを作ったということはありません。ありがたいことに、その時々に仕事を通じてさまざまな出会いがあり、専門の方々のお力をお借りしながら作ってきました。

なかでも主に手を入れたのはカフェカウンターまわりと焙煎室。その一方で、店内にはもともと建物にあったものが今も数多く残されています。

今置いている椅子や机、飾っているザル、棚など、昔から残っているものが結構あります。

すべてを新しく加えるだけではなく、もともとこの場所にあったものを活かしながら、必要なところには手を入れて新しくしていく。そんなやり方が、この店らしい空間を形作ってきました。

古民家だからこそ残っているものがある

建物を見渡していると、曽根さんが「好きですね」と話す理由が少しずつ見えてきます。柱や梁、壁の風合い、手を加えすぎていない表情。そのどれもが、いまの店の雰囲気を支えている要素です。

一部には父親の代に改修された柱や壁などもあるものの、それ以外は比較的そのまま残っている部分も多いといいます。古い建物の中でも、美意識の上に整えられたものではなく、もっと実用に近い建物であることも、この場所の特徴の一つです。

数寄屋や書院造りなども好きですが、ここはもっと実用的に使われてきた建物なのです。それが今となってはシンプルでいいなと思うことがあります。

昔の建物には、思いがけないものが残っていることもあります。

店内に飾っている「水之神」という札も、台所に落ちていたもので。水がすごく大事な仕事なので、今も大切に置いています。

焙煎機の置き場所にも、この建物ならではの巡り合わせがありました。

もともとは表の一室に置いていた焙煎機を、客席を広げるために別の場所へ移したところ、そこに水と火と農業の神様を祀るお札がありました。コーヒーは農産物ですし、焙煎は火を使い、抽出は水を使う。なんだか巡り合わせのようで、この場所でコーヒーを扱うことに、不思議と腑に落ちるものがありました。

建物に残る痕跡や土地の歴史に触れる中で、日本の文化や背景にも自然と関心が向くようになったといいます。

また、白井宿という場所そのものにも魅力を感じています。

町並み自体が整備されすぎていないというか、実際に人が住み続け、営みが自然と残っている感じが良いですよね。そこも価値だと思っています。

観光地としてつくられた町並みではなく、暮らしの延長に歴史が残っていること。その空気感もまた、この場所ならではの魅力になっています。

古民家だからこその難しさと、営業しながら直していく面白さ

もちろん、古民家の活用には難しさもあります。 なかでも大きかったのが、シロアリの被害でした。

今思えばまず確認が必要な部分だとは思うのですが、やはりシロアリですね。最初は目に見える被害がなかったので、そんなに気にしていませんでした。でも、奥を直していくと出てきて、意外と深刻でした。

さらに、古い建物特有の状態も、改修の難しさにつながっていたといいます。

水平垂直に合わせるということだけでは古民家は直せないですよね。現場で『これどうする?』といった判断が結構あって、その度に相談しながら進めていましたね。

 新築とは違い、“正解”が一つではないからこそ、その都度折り合いをつけながら進める必要がありました。

それでも曽根さんは、この店を「完成させてから始めた」のではなく、営業しながら少しずつ整えてきました。

全部を一気につくるだけの資金もないので、まず使える場所で始めて、少し資金ができたら別の場所を直していく、という積み重ねで改修を進めています。古いところはもったいないからこのままにしておこうと思うこともありますし、ここは刷新しようと思うこともあります。そこは毎回楽しく頭を悩ませながら判断しています。

現在も、旧焙煎室であった客席の一部は改修途中で、すりガラスを特注の透明なガラスに差し替えたり、ベンチやテーブルを新たに作ったりと、少しずつ手を入れている最中だそう。

そうやって創意しながら、必要なところだけを整え、残せるものは残していく。その判断の積み重ねが、この店の今の姿につながっています。

店を続けることが、建物と地域を育てることにつながっていく

古民家でコーヒー屋を営む魅力について尋ねると、曽根さんは「好きなことを仕事にしながら、建物も直していけること」と話します。

古民家を直したい、残していきたいと思ったら、当然資金が必要になる。ここで営業して、その収入で直していけるということが一番いい循環だと思っています。

お客さんに見てもらいながら、少しずつ空間が変わっていくことにも意味があると感じているそう。

何回か来てくださっている方が、ここ変わったなと、建物の変化もたのしんでいただけたら嬉しいですし、価値あるものを選び、それを直したり手を加えながらながら大切に使っていくという姿勢を感じていただきたいと思っています。

一度整えて終わりにするのではなく、営業を続けながら少しずつ手を入れていく。そうした変化の積み重ねそのものが、この場所の価値になっているのかもしれません。

そして、曽根さんが見ているのは「この店だけ」の未来ではありません。

この店だけ100年続けばいいということでもなく、地域と一緒に繁栄することが重要だと思っています。この町の価値を後世へも残したいですし、この営みを通じてさらに魅力のある町にしていきたいです。実際、この店をきっかけに白井宿に関心を持ち、移住や新しい活用をはじめる方も生まれています。

そして、これから古民家活用を考えている人への言葉も率直です。

僕もいろいろ古民家について知っていたら躊躇していたかもしれないので、とにかく始めることは大事だと思います。調べすぎて止まってしまうより、前に進みながら解決していく方がいいのではないかと思います。

もちろん、建物の状態を見極めることや、費用が想像以上にかかることへの備えは必要。それでも、「いい出会いがあれば始めてみてほしい」と曽根さんは話します。

いい古民家との出会いはとても難しいですよね。場所も状態も雰囲気も、一つとして同じものがない。でも、もし自分に合う建物に出会えたならぜひ始めてほしいです。

そう語る曽根さんの表情には、この場所と向き合ってきた時間の積み重ねが、静かににじんでいるようでした。

古い建物を前にしたときの戸惑いも、直しながら使っていく中で見えてくる面白さも、そのすべてを含めて、この場所は少しずつ形作られてきました。完成された空間ではなく、これからも変わり続けていく場所であること。 それ自体が、この店の在り方なのかもしれません。

「曾根商店」は、そんな循環を静かに育てながら、白井宿の中で今日も時間を重ねています。

曾根商店 白井宿カフェ焙煎所
群馬県渋川市白井919-1
https://sonesyoten.square.site/

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