Case Study

[後編]木造古民家で、薪の焼き台を構える料理店「ひとひとくち」ができるまで。

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[前編]木造古民家で、薪の焼き台を構える料理店「ひとひとくち」ができるまで。

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記事前編では、試行錯誤の末で巡り合った古民家との素晴らしいご縁のお話をお伝えしました。後編は飲食店へのリノベーションと空間作りについてのエピソード、そしてオープンから3年目を迎える「ひとひとくち」のこれからについて、店主の渡邊龍(わたなべ・りょう)さんにお話を伺います。

お店となる大正時代に建てられた2階建の木造古民家は、元々は塩の専売を担った商店で、商いをやめた時に店舗部分は減築されました。店と住まいを行き来していた戸が今も西側の壁に固定されていて、往時の名残を見ることができます。建物全体の造りも状態もとても良かったので、内部を飲食店にバージョンアップする工事が主となりました。

設計は伊勢崎のアーキライン一級建築士事務所が担当。靴を脱いで上がる暮らしの空間だった場所をお店にするにあたり、土足の部分を広げ、お客様にも働くスタッフにも快適な動線であることを重視しました。建物の南部分の畳の縁側廊下を土間の通路に作り直したことで、お店の玄関から奥の個室まで誰の視線も感じることなく入ることができる、プライベートを確保できる動線になっています。左右に廊下が配された元商店ならではの建物の構造を、渡邊さんが再び今のお店作りに活かす。そんな巡り合わせも感じたと言います。

場所の雰囲気としては、鉄・木・石で形作る空間がコンセプトです。経年により深みが出て、お店とともに育っていくような素材を選んでいます。アイアンで作られた看板は錆により深みが増し、木のカウンターはお客様がふれるたびに温もりのある色に変わっていき、かつてこの建物で基礎として使われていた石は、今は小上がりの沓脱石としてこの場所を見守っています。

白木のカウンターで囲まれたきりりと新しい厨房の中には、存在感がありながらしっくり収まっている古い食器棚。この建物に元々残されていた家具の一つです。長らく眠っていた家具たちを渡邉さんが再びきれいにメンテナンスして、お店の中で上手に活かしています。建物と同じ歴史を持つ家具たちを新しい箇所に取り入れることで、既存の建物との空間をつないで馴染ませてくれるそうです。

厨房に並ぶ料理道具の中で、様々な形と大きさの土鍋がたくさん並んでいるのが印象的です。ひとひとくちのコースを締めくくる旬を炊きこむ土鍋ご飯は、お客様が特に楽しみにしている一品。渡邊さんのお義父さんが育てた県産コシヒカリと旬の食材を炊き上げます。

「やっぱり土鍋ご飯は来るたびに感動します。この前のホタルイカの土鍋ご飯も本当においしくて!」と教えてくれたのは、この建物と渡邊さんとを結びつけてくれた不動産会社・アンカーの川口雅子さん。もっと食べにきたいけれど予約がなかなか取れなくて、と嬉しい悩みだそうです。

薪の焼き台を囲み熱を遮る立ち上がり壁は、版築という古民家の土壁によく用いられる佐官技法で作られました。型を作り、真砂土に少量のセメントを混ぜ、何回かに分けて型に押し込んでいきます。土を変えることで色違いの地層のような仕上げになりますが、型を外してみるまで最終的な仕上がりが見れないところも、緊張しつつ面白かったそうです。

小上がりのテーブル席は畳の部屋だったものを板張りに替えました。関西間という昔の寸法の部屋に現代のサイズの板を張るので端の仕舞い方も手間がかかるところですが、経験豊富な頼りになる大工さんにお任せできたそうです。床以外はほとんど昔のままで、深みのある雰囲気を残しています。「古い」ことは全くデメリットではなく、始めたばかりの自分のお店に落ち着きと風格を与えてくれる価値あるものだと渡邊さんは言います。

床の間には桐生をモチーフにしたアートが飾られています。取材のこの日は、街の交差点を撮影した写真を一度裁断、もじり織りという桐生織の技法で写真を編み込んで表現された作品でした。桐生のアーティストを紹介する場として、作品も定期的に入れ変えているとのこと。現代のアートと、古くからある調度品や床の間が、渡邊さんの感性で融合した一角となっています。

建物1階に厨房と客席が設けられ、2階は器の収納場所として使われています。季節によって器も様々変えるので、保管にも場所が必要となるそうです。桐生で惜しまれつつ閉められた名店などから、縁あって譲り受けた器もあります。

店内の壁の一部は、友人の力も借りて塗装や漆喰をDIYで行いました。ちょっと仕上がりが下手なところもかえって味になっていて、その部分を手伝ってくれた友人の顔が思い浮かぶそうです。今でもDIYの思い出話もつまみにしながら、友人たちが食事やお酒を楽しんでいってくれるそうです。

東京から群馬へ移住した渡邊さん。誰も知らないところから、自分がお店を開くために色々と動いている中で、感性や価値観を同じくできるたくさんの人と自然と繋がることができたと言います。

小さいながらもこだわりを持って仕事をしている、クラフトマンシップにあふれた人が多い街だと思います。各々が自分のものづくりの領域で切磋琢磨していてみんな魅力的ですね。年齢や世代も関係なく、リスペクトできる新たな出会いや仲間が増えてきて、すごく楽しいですね。薪の焼き台を手がけてくれたアリュメール群馬の水澤さんは、実は群馬でできた最初の友達です。白衣の刺繍や愛用の仕事着も、店内の観葉植物も、看板も、お店の中のどこをとっても、頼りになる作り手でもある友人たちの仕事に囲まれています。全部自信を持って紹介できます。

今年の4月で開業から丸2年となる、ひとひとくち。3年目は数字としての経営目標のほかに、いくつか新しい展開も決まっています。

開業からずっと5,000円のコース1本でやってきて、うちの料理のことをある程度知っていただけたと思っています。今年はさらにできるところをお見せする年にしたいので、新たなチャレンジとして、もう1ランク上の8,000円のコースもご提案します。また、次のお正月からはおせちを始めます。

また、具体的なことはこれからですが、桐生のお店にしっかり軸を持ちながらも、外に出てひとひとくちの料理と名を知ってもらう機会も作っていき、ブランディングを高めていく年にしたいとも思っているそうです。

アフターコロナという言葉が聞こえてきた時期に開業したひとひとくち。再び人々が会食を楽しめるように、客席の規模はできるだけ大きくしました。小上がりの二つの部屋を一続きにして20人ほどの会を開くこともできます。

桐生やその周辺の地元の人が、外からのゲストを誇らしく連れてきてくれるようなお店でありたいと思っています。地のものをふんだん使った料理を通してこの土地の魅力を知ってもらえると同時に、地元の人にも良さを再発見する喜びを提供したいです。この街から無くなったら困る店と思ってもらえるようにしたい。その結果として、長くお店を続けていけたらいいですね。

営業後の静かな店内で、片付けをしながら思索する時間を大切にしているそうです。作業をしながら日々の改善点について考えを巡らしていると、仕事が進んでいるな、お店が育っているなと手応えを感じられる。その時間が楽しいそうです。

桐生の街にもっとお店が増えてくれると良いなと思っています。飲食店でも、どんな商売でも、ここみたいな良い建物がたくさん残っているので、アンカーさんのような頼れる不動産のプロがきっとご縁を結んでくれると思います。

と、桐生のまちに惚れた渡邊さんから、新たなチャレンジをする方にエールをいただきました。

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